60代からのピアノ〜認知症予防へ〜

ピアノは本当に脳にいいの?母の認知症予防の為にピアノの先生である筆者がピアノを教えている母の記録です。

はじめての聴音

「聴音」ってなに?

 

と思う方もおられるだろう。

読んで字の如くまさに「音を聴く」ということである。しかも音楽の場合における聴音は「聴き取る」ことである。

例えば先生が「かえるのうた」を弾いたとしたらそれを自分で5線紙に書く訳である。

f:id:pichichi-2525piano:20160530232227p:plain

こんな感じ(歌詞別)

 

ただしこれはかなりハードルが高い。いきなりこんなことは不可能であるが、これを目指してやっていく。音だけではなくリズムも聴き取らなければならないのでかなり難しい。

 

なぜこんなことをするのかというと

  1. ピアノだけでは間が持たないから
  2. 音の高低を意識して聴力を使うことは脳への刺激スゴイ
  3. 音が聞き分けられると自分の弾いたピアノもミスにも気付く
  4. 文字も読み書き両方大事なように、楽譜も読み書き両方することでさらに定着する。

実はこれ、ソルフェージュという「音楽の基礎力」を養うものの一部で、こういった能力がないといつまでたっても「自立」が難しい。ここでいう「自立」とは先生やお手本がなくても自力で楽譜を読んで弾く事を意味する。

 

絵で例えるなら何も見ないで「パンダかいてみて」と言われても、意外と描けなかったりすることと似ている。前に生徒にパンダを描いてあげようと思って頑張ってみたが「先生これじゃあ牛だよ」と言われた。真似して描くのはある程度できるが、お手本がないとパンダが牛になる。変なのはわかるんだけど、具体的にどこがどう違うのかがわからないのである。

ピアノもこれと全く同じ。

こんなこと他の60代以降の生徒さんにはしたことないし、果たしてこの能力が伸びるのかもこの時点では全く不明だった。母親だからこそやってみるのである。

これは一つの実験でもある。

幸子がやる気がなければ無理強いをするつもりはなかったが、幸いなぜか興味を示してくれたので遠慮なく実践することにした。

 

まず最初は「ド」と「ミ」だけを弾いてどっちの音が高いか低いか聞いてみた。ドとミという音をあてるわけではない。あくまでも二つの音を聞き比べてどっちが高いか低いかをあてるだけである。

同じに聞こえるという。

 

なので今度はもう少し開きをつけて「ド」と「ソ」で試してみる。これだと少し差があるのはわかるようだ。ただどっちが高いか低いかはわからないらしい。

なので次に「ドードーソーソー」と何度も歌ってみる。その後で同じ事をやってみると低い方はド、高い方はソと少し一致してきた。

「少し聞こえるようになった。意識するってすごいね。」と幸子が言った。

 

最初はここまで。

 

 

初めてのリズム打ち

私はピアノをやり始める時期が遅い人ほど本当はソルフェージュが必要なんじゃないかと思っている。

ソルフェージュとはピアノだけじゃなく「音楽全般の基礎力」を養うものである。細かい項目は沢山あるのだが、とりあえずうちの幸子に必要なのは次の2つ。

  • リズム練習(楽器を使わない)
  • 聴音(聞いた音を楽譜にする)

 

今回はこの「リズム練習」のみについて書こうと思う

リズム練習だけやる時は楽器を使わずテーブルを手で叩く。時にはカスタネット等も使用する。音程がないもので行わないと、音の高低という余計な情報のせいでリズムが正確に認識できなくなるからだ。

 

まずは「たん」

↓これ。テーブルを一回叩く。 

f:id:pichichi-2525piano:20160529003039p:plain

 

で、次に「タタ」

↓これ。テーブルを二回叩く。時間にすると、上の「たん」一回叩くのと同じ時間で2回叩く。

f:id:pichichi-2525piano:20160529003442j:plain

 

実はこの「タタ」がくせ者で、正確に叩くのはなかなか難しいのである。音符って時間っていう目に見えないものを2等分やら4等分やらにしなければならない。

すっごく具体的にいうと、例えば「たん」1回が1秒だとすると、「タタ」は0.5秒を2回ということだ。0.3秒と0.7秒とかになってはいけない。

タ」って速いイメージがあるので最初の「」が短くなりやすく

f:id:pichichi-2525piano:20160529003039p:plain  f:id:pichichi-2525piano:20160529003442j:plain  f:id:pichichi-2525piano:20160529003039p:plain

こういうリズムがあったら「たん タタ たん」となるはずが「たん タター たん」となることが多い。

しかもこの細かい時間の感覚ってそう簡単に身に付くものではなく、長い期間と、それを判断できるものが側にいないとなかなか身に付かないのである。

 

正直、70代や80代の方のレッスンをするときこのようなリズム練習をすることはまずない。とにかく弾く事を楽しんでいただく。

 

で、当時60代の幸子にそんなにリズム正確にやるべきか?とも思ったが、第一の目的は「認知症予防」なので脳に刺激を与える為にも正確さを求めることにした。一応環境上数十年ピアノを「聴く事」だけはしてきたので、「よくわからないけどなんかいびつ?」ということと「きちんとやらなきゃ結局何年経っても上手にならないんじゃ?」という感覚(超大事!)はあったので、しつこい反復練習に文句を言う事はなかった。

幸「今のどお?」(自分ではわからない)

ぴ「ちょっと違う、こう」(やってみせる)

幸「こう?」

ぴ「おしい。これに合わせてみて」(私がタタの連続でカウントをとる)

〜〜ちょっとできるようになる〜〜

幸「はーなるほど。ちょっとわかった。ここまで正確にやらなきゃだめなんだ。これは頭つかうわー。一人だったら絶対無理」

 

こんなやりとりが約5年以上続いている。勿論進みはしているのでリズムは複雑にはなってきている。それでもやはり「タター」となることはあるが、一回の手本でその場は直るようになった。

 

 

幸子、初めて椅子に座る

うちの幸子(72歳)は背がとても小さい。

ピアノの椅子に座ってみると足が届かなかった。

「あらー、届かない!」

とかいって足をブラブラさせるので(子供か)、足台使用。

 

次にピアノの鍵盤を押し下げてみる。ドレミファソとかはわかるよね?鍵盤では場所結びついてる?的な確認をすると

「はいはい、知ってますよ」

的な反応。身内に教えるって難しいと最初に感じた瞬間。「ドレミファソって親指から順番に弾いてみて」

するとびっくり

音が鳴らないのである

幸子も「あらー、鳴らないわ」なんて言っているが、まず指の力がなさすぎて鍵盤を下まで押し下げれていない。それに加えてゆっくり押し下げているのでなお鳴らない。これ逆に難しいんだけど・・・

幸子より年上の方を教えたこともあるが、長年家事をされてきた手は厚くなっており指の関節は太く、頑丈で結構力強い。

あと、長年の体のクセというか、筋肉のつき方がひとそれぞれ違っているのでそこにピアノを弾くというまた新しい動きが加わると今までピアノを弾くのとは違う動きによってついてきた筋肉が邪魔をするのだという事を知った。

 

以前、農家を営んでいる50代くらいの男性を教えた事がある。体系はガッチリしていて、二の腕はポロシャツの袖がパンパンになるくらい筋肉隆々で手首まで筋肉がついていて、「握力80くらいあるんじゃ?」と思わせるくらいの体つきだった。

今までピアノは経験がなかったが、どうやら昔から興味はあったらしく、当時息子さんを教えてる経緯から思い切って「自分も・・・」となったらしい。

で、初日。

手を自然に構えてそっと「ドレミファソ」とそっと右手で弾いてもらった。

「先生、手が痛い・・・」

 

・・・・・・

なぜなぜなんだろう、なぜなんだろう、たった一回しか弾いてないのになぜなんだろう、とビクビクしながら左手で同じことやってもらうと、左手はなんともない。右手と左手の違いは見た目でしかないが筋肉のつき方が全然違った。右手の方が2割増くらい太い。手首も太いし、筋肉ももりもりしている。

後から勉強してみてわかった事だが、普段の生活では親指の役割って物を掴む、握る為に内側に動く事が多い。親指以外の指も内側への動きが大きい。ただピアノは「指を上に引き上げる」動作がどうしても必要になる。特に親指は「上に引き上げる」動作はまず普段はしないはずである。

 

 

握る(親指内側へ、親指の付け根の関節も内側)

f:id:pichichi-2525piano:20160527140429j:plain

開く(親指外側、親指の付け根の関節も外側)

f:id:pichichi-2525piano:20160527140434j:plain

で、

 

ピアノを弾く手の形

f:id:pichichi-2525piano:20160527140347j:plain

 

親指を天井に向かって引き上げる

f:id:pichichi-2525piano:20160527140436j:plain

  

 横から見るとこう。

f:id:pichichi-2525piano:20160528005625j:plain

 

ここまで上げられなくても、ピアノを弾こうとすると無意識にこの動きに近い動きをするのじゃないかと思う。解剖学的にはよくわからないが、この動き自体がもしかしたら関節とか筋に負担がかかるのかもしれないなと思った。なぜなら親指の動きがスムーズじゃない人は皆これができないからだ。

 

なので72歳の幸子にも十分気をつけなくてはならないと感じた。

少しづつ、少しづつ進めていこう。

 

 

ご挨拶

はじめまして

ピアノ講師歴20年のぴちちと申します。

このブログは60代からピアノを始めた(多分65歳くらい)本人のブログではなく、その娘でもありピアノ講師でもある私が母・幸子(さちこ)の記録の為に書くブログです。

 

うちの幸子は現在72歳。母一人、子一人。母は一人で暮らしていますが、私自身が母の住んでいる実家でもピアノを教えているため毎週実家に行った時にピアノを教えています。

 

母は大病もし、体力もなくなり、視力も悪い事から今まで通っていたサークルもいくつかやめました。高齢の方達が集う軽い運動や頭の体操をする所等に通っています。本人曰く、「認知症予防のため」とのこと。

 

娘である私が音大までいき、こうしてピアノの先生を生業としているので、母親はピアノが弾けると周りに思われる事が多いのですが、実は全くもってピアノは弾けません。グランドピアノが家にあるのに指一本触れた事がありません。

正確にいうと

本当に指一本だけ触れてそれから30年以上一切触れていない

です。

 

どうやら幼少の時の私の為に少しは触れてはみたものの、全然弾けないし、自分弾けなくても子供は不思議なくらいどんどん弾けるし、「子供ってピアノすぐ弾けるのね。自分は全く向いてないみたいだから触るのやめよーっと」となったらしいです。

 

うちの母は音楽自体は好きなので、コーラスをやったりしていたが楽譜が全く読めないので何度も教えてあげようとしたり、折角ピアノあるんだし私教えれるし、やってみない?と促してもずーーっと拒否されてきました。

 

ただ、病気になり、そういったサークルもやめて

「このままじゃボケる」

「でもお金のかかる習い事はできない」

という現実を目の前にし、

「しゃーない。娘にピアノ習うか。タダだし」

となりました。

 

私の方も万々歳で、絶対ピアノは脳にいいと確信しているし、本当に認知症になってからの介護をすると思えばピアノを教えるくらいへのかっぱ。10000倍くらい楽です。

 

母を教え始めてから既に5〜6年経っているので時系列でうまく現す事はできませんがそれでも読んで下さる方がいらっしゃいましたら幸いです。

 どうぞ宜しくお願いいたします。